桜の分布状況
峯山を中心に常盤山緑地のヤマザクラの分布状況を調査しました。 約300本あり、このうち幹回り3m近いものを巨木として32本を全体図にプロットしてあります。
常盤山緑地の桜分布状況の調査
及びヤマザクラの保護活動について
2018.3.30 鎌倉・峯山の会 小川 勝一
1. 桜の分布状況
2017/12月~2018/3月の間に峯山付近特に散策路の両側のヤマザクラの分布状況を調査した。ヤマザクラは固有の種であるが、山野に自生する桜全体の総称でもある。ここでは後者の意味で用いている。調査は伐採エリア及び散策路からの目視で行った。図1に調査エリア全体図を、図2から図6に区分図を示している。なお、今回は桜全体の本数をカウントしたが、品種の同定までは行っていない。ヤマザクラ、オオシマザクラ、ソメイヨシノなどが混在しているので引き続き同定を行う予定である。また、幹回り3m前後のものを巨木として、その分布状況を全体図に示したが約32本にも達する。
2. 図の説明と桜の本数について
1. 区分1 峯山山頂付近
約7000m²の峯山山頂で篠竹と真竹の藪状態の伐採を行った。南斜面の真竹の中のヤマザクラも含めて、92本あり、巨木が9本ある。この付近に桜が集中してあることがうかがえる。
2. 区分2 三叉路から峯山山頂下への尾根路コース及び南斜面エリア
このエリアは当初山頂下広場の前の5・6本のヤマザクラを藪から出そうということで始めたが、切り開いて行くうちに多くのヤマザクラが出てきた。また、斜面上部の竹林が尾根路の休息所まで続いているので、全体として伐採している。整備中の所も含めて51本のヤマザクラがある。殿入り口〜峯山山頂下までの散策路のヤマザクラは、ほとんどが藪の中にある。なお、円久寺裏の谷戸ゾーンについては未調査である。
3. 区分3 梶原口〜三叉路(八雲神社コース分岐点)
尾根コースと尾根下コースがある。尾根下コースは十分に整備されていない。尾根コースの富士山の見晴らし台の付近のヤマザクラの周辺は綺麗に整備され、ベンチが用意されている。その他の場所のヤマザクラはほとんど藪の中にある。本数は66本ある。
4. 区分4 峯山山頂下〜旧野村総研側からの峯山入り口および御所の内ルート
このエリアは尾根散策路コースで、コース両側に37本のヤマザクラがある。回りを大きな雑木や杉の木に囲まれていて、つるなども絡んでおり、枯死するのが心配。
5. 区分5 タチンダイ口~グランド〜旧野村総研側からの峯山入り口
タチンダイ口からの散策路に17本、グランド付近に16本、旧野村総研付近に17本、ほかに4本の計54本のヤマザクラがある。
以上のように、1~5のエリアの桜の総数は300本になる。この他散策路以外のエリアを入れると10%程度増えると考えられ、約350本近いヤマザクラがあると思われる。大仏ハイキングコース添い・梶原・山崎・台峰エリア、鎌倉山・広町・までの範囲を考えると日本でも有数のヤマザクラの本数を誇る地域と考えられる。
3. ヤマザクラの保護活動について
前述のように、峯山周辺の散策路から確認できたヤマザクラは300本であった。そのうち藪を開いて出てきているのは108本、全数の36%で、残りの64%(188 本)はまだ藪の中にあり、枯死するのを待つばかりでいると言える。峯山の会のメンバー(藤井会員)がヤマザクラの胸高直径(幹周り)と樹齢との関係について検討した報告には、峯山には直径100cmを超えるヤマザクラがあり、樹齢は200年から270年と推定している。江戸時代後半に植えられたヤマザクラだと思われる。茨城県大子町の文化遺産公式ホームページには、26本のヤマザクラで沓掛峠のヤマザクラ群として誇らしげに紹介していて、保護活動が進んでいることが分かる。常盤山緑地並びにその近辺のヤマザクラは大子町の約10倍もあるわけであり、ヤマザクラが枯死して減少する前に保護活動をペースを上げて真剣に進めていかなければならないと思われる。
ヤマザクラの保護活動は密生する篠竹や真竹などを伐採し、絡んだ蔦やフジヅルを切って行う。伐採する前や伐採直後の地面を見ると篠竹や真竹のほか、アオキ以外の植物はほとんど全く見られず、非常に貧相な植生であった。伐採により地面に雨や日光が直接届くようになると、地中に埋もれていた草の種が芽生えて緑の草地に生き返るのが分かる。また、伐採前の藪の中や伐採直後には昆虫類は全く見られず、居るのはダニの仲間などだけであった。峯山山頂や尾根路南斜面の約 8000m²の篠竹・真竹の伐採中、枯れ木に作られた鳥の巣は2個だけであった。先日、山仕事の昼食時に冬の陽を浴びたヤマザクラを見ていると、「何て良い太陽なのだ」と言っている顔をしたようにヤマザクラの木肌が艶やかに見えた。最近は以前にはいなかったカラスやトビを見かけるようになった。ヤマザクラを守るため藪を伐採すると、植物の光合成を活性化させて草花の発育を助け、昆虫が集まり卵を産み付けて発生を促すようになる。最初に篠竹を伐採した峯山広場には散策路脇から早春に白い小さな花をつけるセントウソウが広がって来て、続いて今まで見かけなかったミドリハコベやヤマネコノメソウなども生えてきている。セントウソウの小さな花には小さなハチも群がっていた。生物の自然の循環が繰り返され始めている。さらに長い年月を経ることによって多くの様々な種類の生物にとって適した環境が取り戻されるだろうと思う。
生物多様性の維持のためという理由で、あるいは緑地保全のためという理由で、樹齢200~250年のヤマザクラを中心とする群落を守らず放置していることは、鎌倉の文化遺産を継承し守る立場からも、許されないことであると思われる。戦後の高度成長期を経て炭や薪を燃料に使う生活から石油を使う生活に代わり、里山は久しく放置されて整備は皆無の状態になっている。そのような状況の中で自然の循環を守り維持する活動が、緑地保全や生物多様性の維持につながってゆく筈であると考えている。直径100cm超の大径木に数十cmの小径木が混じる鎌倉のヤマザクラは、里山の薪炭材として一部刈り残されて保護されてきていたと考えられる。他方、常盤山緑地は鎌倉時代、北条政村や義政の別邸とされる常盤邸を構えていたという歴史的に由緒ある地域である。その裏山に政村や義政の時代からヤマザクラがあったとすると、今あるヤマザクラは3代目か4代目のヤマザクラと考えてもおかしくないと思われる。
峯山の会の吉田代表のエッセイに「誰かがこのヤマザクラを守ってくれたお蔭でいい花見ができた」と言ってもらえれば苦労が報われる、「全国各地の花見の名所も、このような永年にわたる営みがベースにあるはずです」と書いている。その時、その時代、誰かができる範囲で山仕事、ヤマザクラの保護活動を継続的に行っていかなければならないと思う。
現在、活動は次のような項目を中心に計画して進めている。
1. 真竹、篠竹等の駆除(ヤマザクラ等の群生地保護)
2. 竹類駆除後のお花畑の植栽
3. 小鳥、昆虫類の呼び寄せ
4. ハイキングコースの整備・安全対策
5. ハイキングコース等の案内標識の整備
6. 子供(保育園児)達の遊び場の提供
7. トイレの設置
特にユニークなのが6.である。自然の中で自由に遊んで、園児たちに夢のある未来を育んで貰おうというのである。篠竹を切り開いて山が明るくなるに従い、山に来る保育園児たちが増えてきた。会の吉田代表は彼らのために切り株の安全性に常に気を付けて処置している。また、山の中を駆けずり回る子供たちに安全な場所を整備して少しずつ広げている。山で遊ぶ楽しさを味あうために、空溝に丸太を渡して橋渡りの遊び場を作ったり、斜面に青竹を並べた滑り台のように滑り降りて遊ぶ場を作ったりしている。現在は篠竹の群生 地の一部を残した迷路遊びの場や、ターザンごっこで遊べる場所ができないかなど計画を練っているところである。7.のトイレの設置の問題もある。トイレがあるかないかによって行き先を決めるハイカーもいる。多くの人が利 用するための必須条件であると思われる。
このようにヤマザクラの保護につながる活動は気の長い作業であり、その時、その時代でできる人がやらなければならないもので、その中に楽しさや意義を求めて仕事に励んでいきたいと考えている。
以上